吃音（どもり）者のセルフヘルプグループ・福岡言友会会報
「げんごろう」 ２００７年２月号から
| ツレがドナーになりまして 匿名希望 ２００６年１１月某日某所ＡＭ８：００過ぎ 昨夜から絶食していたツレは、安田大サーカスの団長が着ているスーツのような、引っ張れば素っ裸になる手術着を着て、紙パンツ（注：紙オムツじゃないよ）をはき、むくみ防止の白いハイソックスをはき、私の携帯のカメラの前でポーズを取る。 そう、ツレはこれから手術室に向かうのである。初めての入院、初めての手術、初めての全身麻酔、初めての導尿、初めての骨髄採取手術。 １年前に骨髄バンクに登録して早々ヒットし、この眺めの良い、ﾊﾞｽトイレ付の個室でポーズと取ることとなったのだ。（ちなみにツレが骨髄ドナーに選ばれてからの、諸々の検査費用、病院までの交通費、入院費などの費用は、骨髄移植を受ける患者さんと、骨髄バンクより出されている） 大部屋ではないので、どもることを気にしながら世間話をすべく同室の患者さんはいない。気が向けば、看護師のおネエさんとの会話を楽しむだけでいいわけであって、どもることなんか関係ない空間に思えるのだが、ここには吃音者検査があった。 イマドキの病院は医療事故防止の為、注射の度など、何かに付けて患者の氏名を確認するのだ。 看護師「お名前は？」 ツ レ 「♪∀＄ ＃、＃○×△です」 私 「・・えらい、こっちゃ。吃音者にとってはありがた迷惑やなぁ（心の叫び）」 私はツレの顔を見て、意味ありげに笑うしかなかった。 そして私も吃音者検査を受けた。 ツレは術後ＩＣＵ（集中治療室）に一時世話になった。ＩＣＵは限られた人のみが面会を許されるのだが、そのＩＣＵの入り口にはインターホンがある。そしてこんな貼り紙が貼ってある。 「御用の方はこのインターホンを押してください」 ・・な、なんですとぉ！！！ インターホンやマイクなどに向かってしゃべると、いつも以上に緊張してどもり、挙動不審になる私にとって、これはキツイ検査なのだが、術後のツレの顔を見るためには、吃音者検査を受けなければならなかった。 「あ、あ、あのぉ、・・・♪∀＄ ＃○×△に面会したいんですが・・・」 ようやく検査を受けて、ちゃちゃっと手を洗い、焼肉屋みたいなペラペラのビニールのエプロンを付けて思った。 ・・こんな簡単な装備させるためにインターホンに向かってどもらないといけないのかよ！って。 手術を受ける為に部屋を出てから５時間後。ツレはＩＣＵから一般病棟に移った。 主治医の先生からの第一声はこうだった。「ありがとうございました」 手術を受けた側が医者からお礼を言われるとは、何たること！！ 私が手術を受けたわけではないのだが、「ありがとうございました」の言葉に、私の方が興奮してしまった。骨髄移植ってこれなんだぁ！！叫んだ。 大したことをしたつもりはない。人の為になろうと、力むほどの気負いはなかった。そこがまたいい。ツレは私の誇りです。もうすぐ厚生労働大臣からの感謝状が届くらしい。 おまけ：ツレは骨髄採取手術後の尿道痛（全身麻酔を受ける男性の運命のようで す・・・）には参っていましたが、後は軽い貧血くらいで、術後３日で仕事に 復帰しました。現在は至って元気です。 |