私は昔、自分が吃ることを嘆きながら、父に「父ちゃん、どうしてうちだけが吃るとね、吃ることは好かん！　吃りながら生活することは苦しい。だから社会に出たくない」と言ったことがある。そして思った。吃りなんかより、片足が不自由な方がどれほどいいかしれないと。常識では吃りの方が良いに決まっている。だけど、吃ることに怯えておどおどした生活よりも、人前で足を引きずりながら歩く姿をさらけ出しても、その方が、自分の人生という土台にどっかり根を下ろした生活だと思ったのである。
　ある時、私はバスに乗っていた。福祉会館前バス停からドヤドヤと６人の若者が乗り込んできた。私の向かい側の席に３人、後方に３人と分かれて座った。よく見ていると、手をいろいろに動かし、口をモゴモゴしていた。手話で話しているのである。その人たちは、分かれて座った前方と後方で何か言っているようだった。時々、ニコッと笑ったりしながら・・・。回りの人たちも好奇心で見ている様子なのに、全く平気で喋っていた。
　その時の６人の底抜けに明るい笑顔と、堂々とした態度は、私にある種のショックを与えた。そして、生きていることが美しいと思った。吃音者よりろうあ者の方が、はるかに障害は大きいはずなのに、自分ときたらいつも吃ることを恥じ、恐れ、おどおどした生活。
「そんなんじゃないんだよー」
私は悪いことなんかしていない。いつでも朗らかに、自分の目標に向かって、顔を真っ直ぐ胸を張って歩きたいだけなんだ。
　下車してから家までの徒歩、私は、幼稚園の生徒のように、右の手と右の足、左の手と左の足を一緒にして、一歩一歩大地を踏みしめながら、
「勇気だ！！勇気だ！！」
とつぶやいていた。

　確かに心がやすらぐことはいうまでもない。仲間に会うだけで良い、そんなにまで私の心は求めていたのか。もっと人生について語り合いたい　自分の生き方について意見を聞きたい　結局は自分自身の問題であろうとも　一緒に生きることについて語り合いたかった。
　時間がほしい。だが私には時間がない。もっと早くめぐり会うべきであった。年齢に応じてやるべき事がたくさん待っているのである。若さが・・・過ぎていく。人生やるべき事が待ちかまえているようだ。早く自分の生き方に計画をたてなければ・・・
　あせる自分の心、女はあせるからネ・・・。じっくりと私の歩く道を見きわめなければ　言友会をいつまでも楽しんではいられないのである。それぞれ一人立ちしなければならないのだから。でも心だけはおいていこう。遅すぎためぐり会いがくやしい。今が、そう今が私の旅立ちなのだ。何も考えず青春のままでは許されないのか。言友会、私にとっては心のやすらぐすばらしい仲間である。たとえ巣立っていこうとも、疲れたとき苦しいときは仲間に逢いにこよう。何もいわずとも、共通の戦いがあることで勇気づけられる。



不運な男
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ａ．Ｔ

私は盛んに手を動かし調子をとっている
初対面だと相手の弱点、癖がわからず、なかなか出してくれない
なぜ、と頭の中を駆け回る。
鼓動が激しく響き、すっかり緊張してしまい　顔面蒼白となる
冷や汗で手はびっしょり　次第にあせり　冷静さを失う。
「ちくしょう」と心の中でつぶやく。
もうだめだ、いよいよ出ない。
手の調子を変えたり、汗をふいたり、そのうち、調子をとっていた手に抵抗がなくなった。
玉がなくなっているのだ。
「今日の運だめしは、まずパチンコから」と放送が流れる。
不運な給料日前の男。



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